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08洞爺湖サミット・カギ握る日本

北海道洞爺湖サミットに寄せて「北の国からのエッセイ(12)」 (2008.04.28)
 ミズバショウの大群落 

北海道では雪解けとともに湿地や沼地に顔をだすのがミズバショウです。道内でも有数のミズバショウ群生地が札幌郊外にあり、先日出かけてきました。ミズバショウは例年なら5月に入って見ごろとなりますが、このところ札幌は異常に暖かく、ミズバショウはもう終わってるのではと心配です。4月中に札幌で6日連続20℃を越したのは、実に81年ぶりだということです。
< 母なる川 >
大雪山系に端を発する石狩川は、上川・空知の穀倉地帯を潤して石狩市で日本海に注がれている全長268kmの大河です。

かつては信濃川とともに日本ではトップクラスの長大河川でしたが、雨が降れば荒れるに任せて蛇行していた川をショートカットした結果、100km短くなりました。

自分の体の3分の1をカットしても長さは3位、流域面積は2位、日本では有数の大河であることには変わりありません。

多くの支流を合流して満々と水を湛えた河口に立つと、自然の脅威とともに、畏敬の気持ちさえ感じます。暴れ川といわれた石狩川の治水工事は、北海道開拓の歴史と密接な関わりを持ち、知れば知るほど母なる川だと実感します。

一番大きくショーカットしたのが札幌に近い下流の河口付近です。

ごらんの地図の水色の線が旧石狩川で大きくS字型になって流れていました。そして青色が現在の石狩川で、ほぼ直線です。

この2つの川に挟まれた低地は中州のような状態になっており、ここに北海道でも1~2番のミズバショウの大群生地、マクンベツ湿原があります。バスを降りて遮るものがない土手を歩くと、低地の湿原は見事なハンノキの林で覆われています。

ハンノキは湿地に生える落葉広葉樹で、本州では水田のあぜ道に稲掛け用に植えられているおなじみの木です。

このハンノキ林に一直線に伸びる木道が400m伸びており、その左右はみごとなミズバショウの群生地になっていました。大きな葉っぱに白い花、ミズバショウはマクンベツ湿原の主役です。

このハンノキ林に一直線に伸びる木道が400m伸びており、その左右はみごとなミズバショウの群生地になっていました。

大きな葉っぱに白い花、ミズバショウはマクンベツ湿原の主役です。
< ミズバショウは雑草 >
現役時代、東京に長く住んでいた私は、夏になるとよく尾瀬を訪れました。

時には夜行列車で、時には泊り込みで、喧騒の都会から逃れるようにミズバショウを求めました。

あの可憐で、穢れのない花は自分の人生とは無縁だったのでしょうか、無縁であるが故に、心の中にはミズバショウに対するそれなりのイメージを常に抱いていました。

札幌に終の棲家を求めて5年、ミズバショウほどそのイメージに落差がある植物を他に知りません。

“ミズバショウは北海道では雑草である”
こう喝破した専門家がいました。

北海道の植物図鑑を監修するほどの大家です。最初その話を聞いたときには本当?と思いました。ミズバショウの価値を極めて過小評価している表現です。

確かに北海道では沼地でも、道路わきでも、水が流れるような所なら、どこでもミズバショウを見つけることができます。特別扱いするような花ではないということは、次第にわかるようになりました。
< ヘビの棲み家 >
“ミズバショウのことを北海道ではヘビノマクラという”

この話を聞いたとき私は頭にハンマーを打ちつけられた衝撃を受けました。同時に抱いていたミズバショウのイメージも粉砕されました。

なぜミズバショウがヘビなのか。「なぜだかよく判らないけど、小さい頃から白い花(仏炎苞)の中にヘビがいると言われて、誰も近づかなかったの」年配の道産子は口をそろえてこう言います。

おそらくミズバショウいう名前は、よそ行きの名前なのでしょう。ヘビノマクラの真相はよく判りませんが、関係者の話を総合すると、

・沼地の汚いところに生えて誰も寄り付かない
・食用にはならない
・花が終わるとき白い部分は茶色になって汚く、棒状の花が倒れている様は蛇が寝ているように見える

・・などなどからヘビノマクラといってるようです。「牛の舌」と言う方言もあるようで、いずれにしても尾瀬に憧れの桃源郷をイメージしている人にとっては対極にある表現です。
< 春植物 >
♪ 夏が来れば思い出す ♪

青春の健康的な歌、この歌も誤解を与える歌です。漠然と歌い聞いていると、ミズバショウは夏の花なのかと思います。

確かに尾瀬ではミズバショウは初夏に咲く花かもしれません。しかし実際は早春の花で、北海道でも箱根仙石原でも春に咲きます。むしろ尾瀬が例外的ですが、この歌によって初夏の花と思ってる方が多いと思います。

ハンノキは落葉広葉樹ですので春先はまだ葉をつけていません。このため植物の生長にとって大切な光は沼地にまで届き、ミズバショウはその光を利用していち早く受粉に必要な花を作ります。

つまり、ミズバショウは高木の葉が出てくる前に花をつける植物で、そういう意味では、カタクリやイチゲ・エゾエンゴサクなどと同じ「春植物」とも言えます。常緑樹の足元には春植物は絶対に生えません。葉がまだ出ていないハンノキの足元に、ミズバショウの大群落があるマクンベツ湿原は、植物生態の典型的な一面を示した教科書ともいえます。

「夏が来れば思い出す・・」は、誤解を招かないためにも、いっそのこと「尾瀬に行けば思い出す・・」と変えたらどうでしょう?けど、それではあまり情緒がないですねえ。ミズバショウは花の後に葉が大きく育ち、1m以上にもなります。その葉がバナナの仲間の芭蕉に似ているうえ水辺に生えるので、ミズバショウと呼ばれています。なぜ葉があんなに大きくなるのでしょうか。

ハンノキなどの高木に葉が出てきますと、普通の春植物は光合成に必要な日光がさえぎられて、ここで1年の生活史を終えます。余りにもはかないが故に Spring Ephemeral 春の妖精ともいわれています。同じ春植物でもミズバショウは、はかない人生を選びませんでした。

次第に少なくなる日光を、葉のどこかでキャッチしようと逆に葉を大きくしていったというのです。キャッチャーミットは大きければよいということでしょうか。植物は生きるためにいろいろな知恵を出しているという講釈を聞くと「植物は賢い」とつくづく思います。
< ヒグマの大好物 >
狩猟民族であるアイヌの人は自然の動植物をカムイモシリ、神が与えてくれた贈り物として敬うとともに生活のために徹底的に活用しました。

しかし有毒で食用にはならなかったミズバショウは、化膿した傷を治す薬として使った他は、それほど重視したことはなかったようです。

人間にとって食用にならなくても、ヒグマにとっては大好物です。ヒグマがミズバショウをパクパク食べている光景を、テレビで見たことがあります。それは、冬眠から目覚めたヒグマが、有毒なミズバショウを食べて、腸に詰まった脂肪分を排泄させるためだといわれています。

フン詰まりに有用なミズバショウ、だからといって人にそのまま当てはまるわけではありません。お気をつけください。ミズバショウの群落を歩くと、ミズバショウは存在感のある植物であるとつくづく思います。それだけでも人間にとって有用かもしれません。

雑草といわれようと、ヘビノマクラと言われようと、ミズバショウは尾瀬のイメージを壊したくないものです。そうでなければわざわざミズバショウを求めて徘徊することはないでしょう。

大雨のたびに石狩川に翻弄されたこの地域でのミズバショウとの出会いも、実に新鮮でした。

(寄稿=望田 武司)

望田 武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。



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