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08洞爺湖サミット・カギ握る日本

北海道洞爺湖サミットに寄せて「北の国からのエッセイ(22)」 (2008.06.23)
 沼と島の高層湿原 

旭川からオホーツク海側に抜ける道のひとつに旧国道の浮島峠がある。いまはトンネルができて、利用する車はほとんどない。

その峠の近くに浮島湿原がある。大小70余りの沼が点在する、東京ドーム5倍の広さの湿原だ。ヒグマの生息地域でもあり、地元のガイドは鈴を腰につけて先頭を歩いている。

観光客はまず訪れないが、自然愛好家にとってはその名前を聞くと、一度は行って見たいとおもう湿原である。

神代のむかし、男体大雪山の精と女体手塩岳の精が、悲哀に泣いて沼を作り、思いを通わす浮島を作ったという湿原を18日訪れた。
< 咲き始めた高山植物 >

北海道の最高峰は大雪山系旭岳の2291mで、他の高い山もせいぜい2000m前後である。この程度なら奥多摩クラスだと思いこみ、道内の山を登ってひどい目にあったという話をよく聞く。

北海道は緯度が高いだけに、その気象や植生は1000mを足せば、本州の高度とほぼ同じだといわれる。浮島湿原は海抜870mのところにある。

従って本州の1870mくらいのところに位置すると思うと、ほぼ間違いない。車を降りて、背丈以上のチシマザサとダケカンバの林を湿原に向かって歩く。この日はフェーン現象なのか、朝の天気予報では旭川で26度、北見で29度という予報であった。

日差しが強いが、さわやかな風がカンバ越しに吹き抜け、とても気持ちがよい。同行の色白のご婦人に「紫外線対策はばっちりですか」と尋ねたら、自宅で塗ってきたけど、バスの中でもうひと塗りしたとのこと、失礼ながら今更とおもいながらもご苦労なことだ。

歩くこと20数分、湿原に到着だ。私たちをまず歓迎してくれたのはチングルマである。あちこちに薄黄色の小さな花が風に揺れている。(写真下左)去年の旭岳以来のご対面だ。さらに小さい白いミツバオウレンも一面に咲いている。(写真下右)



大小の沼を縫うように木道が果てしなく続いている。相当くたばった木道ばかりだ。

足元に注意しないと沼に落ちかねない。同行してくれた地元の森林管理署の署長に尋ねてみた。

「賞味期限切れの木道ですね。全面更新の計画はあるのですか」
「大雪山系にはまだ木道すらないところもあって・・・皆さん声を大きく出してください」

世論の後押しで予算をつけたいということだろうか。

< 高層湿原 >

浮島湿原には2つの大きな特徴がある。ひとつは典型的な高層湿原だ。湿原はその状況から、低層・中間・高層湿原などに分けられる。

高いところにあるから高層湿原でありがちだが、必ずしもすべてがそうではない。分類の基準は地下水である。泥炭が水中で堆積し、地表面が地下水面より低い湿原が「低層湿原」である。 ミネラルを多く含んだ地下水で涵養される富栄養化の湿原で、代表的な植物はヨシである。

これに対し泥炭の集積が進んで、地表面が盛り上がって地下水面より高くなった湿原が「高層湿原」だ。水は地下水に頼れず、雨や霧などの天水のみで涵養される貧栄養化の湿原で、代表的な植物はミズゴケやモウセンゴケ(写真)である。

平たく言えば地下水より下にある湿原が低層湿原で、上にある湿原が高層湿原である。低層湿原の代表的なものが釧路湿原であり、高層湿原の代表的なものが尾瀬ヶ原や浮島湿原である。

< ひょっこりひょうたん島 >

もうひとつの特徴が、浮島湿原には池塘(ちとう)と呼ばれる水溜りのような沼に、浮島が多くあることだ。文字通りの浮島湿原だ。

ひょっこりひょうたん島のような浮島も、千切れてできたものから、沼底の泥炭層が浮き上がってできたものなどいろいろある。

ミズゴケなどが数百年、数千年かけて腐敗されないで堆積した泥炭の層ともいえる。同行した湿原学者によると、写真の沼は湿原の変遷が典型的に現れているという。

下の浮島は全面ミズゴケで覆われているのに対し、上の浮島は円周にのみミズゴケが生えているのがわかる。これは泥炭が乾燥して、真ん中に他の植物が生えてきていることを示しており、下の島から上の島になるまでには数百年はかかるという。

気の遠くなるようなはなしだが、湿原の生成過程が学べる教科書のような湿原だ。なんとなくひとっ飛びして島に上がってみたくなる。ぶくぶく沈んでしまうだろうか。湿原のあちこちに生えている木々はアカエゾマツである。

点在しているアカエゾマツは、まるで湿原を浮かび上がらせるアクセントのようなものだ。湿原全体が絵になっており、手付かずの原始の世界が目の前に神秘的に広がっている。アカエゾマツは生育が遅い。このため材質が緻密で、ピアノの材に使われているうえ、湿原性のものは矮性で葉が詰まっているため、盆栽として珍重されている。

環境の悪いところでも育つアカエゾマツは北海道の代表的な木であり、エゾマツとともに北海道の木に指定されている。そのアカエゾマツの根元から何かが動き出した。 「ウサギがいる!」黄色い甲高い声が森に響く。

いっせいに動いている物体の方向に視線が注がれる。野ウサギだ。

結構大きい。途中立ち止まって大きな耳をたて、私たちの動静に神経を尖らしている。なんともかわいらしい仕草だ。

野ウサギが日中姿を見せるのは珍しい。自然の中で初めて見た。これまでは丸いフンだけしか見たことがなかった。

ワシなどの天敵に襲われないかと心配になってくる。

< シーズン幕開け >

6月も半ばを過ぎたとはいえ、花を求めるには少し早すぎたようだ。浮島湿原への訪問は今回で3回目だ。今回もここの湿原の目玉植物、沼一面をおおうエゾベニヒツジグサ(スイレン科)には、お目にかかることができなかった。

けどピンクのヒメシャクナゲ(写真下左)や、白いツマトリソウ(写真下右)など、普段余り見られない可憐な花を観察できた。


浮島湿原は雪が3mも積もる豪雪地帯である。

半年間の長い冬が終わってようやくこれからがシーズンといえる。最近は湿原の乾燥化や観光化で、痛みの激しい湿原が多いという。

けど浮島湿原にはそのような兆候はなく、昔のままのたたずまいである。いつまでもその姿を保ってほしいものだと思いながら、浮島湿原を後にした。

(寄稿=望田武司)

望田武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。



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