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08洞爺湖サミット・カギ握る日本

北海道洞爺湖サミットに寄せて「北の国からのエッセイ(25)」 (2008.07.08)
 サミット狂想曲 

北海道洞爺湖サミットが開幕した。

とき、たまたま本日7日は七夕だ。1年に1度、世界主要国の首脳が一堂に集まった。会場の洞爺湖上空はあいにくの空模様のようだが、時折雨もやんでいるようだ。

雨上がりの洞爺湖は、神秘的雰囲気をかもし出しているかもしれない。テレビでサミットの模様を見ていると、空港から降り立つ7つの国と地域の代表は北斗七星のように思えた。 G8の残る一つはホスト役の福田さん、彼は輝く北極星といった役回りだろうか。

北海道の道旗は五光星で、北極星を意味する。明治の開拓時代、五光星は庁舎や戦艦・製造品などに、北海道を象徴するマークとして使われた。

国策のビール工場が民間に払い下げられた際、マークをもらって商標にしているのがサッポロビールである。

国際政治の難しいことはわからぬが、星がまばたく宇宙に向かって、恥じることのない地球規模の成果が、北海道から発信できることを福田さんに期待したいものである。

(写真:明治11年の建築当時、札幌農学校の演武場(現時計台)に貼られていた五光星)

< サミット紋所 >

それにしても、この1ヶ月、地元北海道はサミット、サミットで明け暮れた。新聞・テレビはサミットで埋まった。主要テーマの環境問題にひっかけ、子供たちの自然観察会も、町の清掃のごみ拾いにも「サミットを前に」という接頭語がふられた。

「サミット」というキーワードがあればニュースになった。「そこのけ そこのけ サミットが通る」といったところであろうか。今回のサミットには警備のため全国から多くの警察官が動員された。埼玉県警、広島県警、和歌山県警・・・ちょっと歩くだけでいろいろな県のおまわりさんに会う。

都心では、観光客よりおまわりさんが多いみたいだ。犬も歩けばおまわりさんに当たってびっくりしていることだろう。

今回のサミットは20数カ国の首脳が参加する拡大サミットだ。

お城のようなサミット会場、ザ・ウインザーホテル洞爺には、主要8カ国の代表が泊って缶詰だが、その他の首脳の泊り先は札幌だ。

それだけに札幌都心部に車列が行き来する頻度は高く、そのたびに信号は停止され、手信号となる。ノンストップで車列が通るまで、交差点で10分くらい待たされる。

長い待ち時間に、交差点で警備している沖縄県警のおまわりさんに声をかけた。「涼しくていい出張だね」すると「はい、ありがとうございます」という返事がかえってきた。車列が通り過ぎると、最後尾の黒塗りの警察車両から「ご協力ありがとうございました」というアナウンスが聞こえた。いらいらが少し緩和される挨拶だった。

< 蔵から取り出したさびた紋所 >

サミットを翌日に控えた6日、自宅を出ると交差点の立看板が目に入った。前日までなく、初めて見る看板だ。「静穏保持指定地域」と赤字で書かれていた。なんだろう これ?と思った。

「外国公館等周辺地域につき、違法な拡声器使用は法令により罰せられます」と書かれてあった。クレジットは警察でなく、地方の住人には無縁のお役所、外務省だ。

確かに、歩いて5分くらいのところにアメリカ総領事館がある。この看板を見て、目線が違う外務省の役人らしい仕業だと思った。

看板なんかなくても静穏な地域なのに、寝た子を起こす看板だ。こういうのは蔵から取り出した錆びた紋所と言うのだろう。その効果はないと思う。

逆に自分の住んでいるところがこういう指定地域になっていることを初めて知った。好奇心がむらむらわき、総領事館を覗いてみた。総領事館までの四つ角にはすべておまわりさんが警戒していた。

とくに総領事館付近はおまわりさんだけだ。近くの市長公宅の入り口広場には、鳥取県警の警察車両が駐車していた。市民が通るのも憚るような雰囲気だ。

そういえば一昨年のクリスマスイブのとき、総領事館前を通った。隣の瀟洒な民間の住宅の庭木がイルミネーションで飾られており、幻想的だった。(写真6年12月)

カメラでパチリとやったところ、突然警察官がでてきて「何をしてるのか」と誰何された。「あんたを撮ってるんじゃないよ」と、ムードのない警察官に言いたかったが「すみません」とすごすご引き下がった。

普段でもそのようなところである。超厳戒のこの時期に、とてもカメラを向けることはできなかった。

< 北の守りで全員集合 >

1ヶ月ほど前、定山渓温泉に泊りに行った。定山渓は、盛んにテレビで紹介されている国際メディアセンターの留寿都村から、札幌に向かう途中の好位置にある温泉場だ。

ホテルの女将がニコニコだった。一般のお客はさっぱりでも、全国からのおまわりさんで特需だそうだ。1か月も前から、静岡県警・沖縄県警などの輸送車が、一般客に目立たぬよう、ちょっと離れた空き地にずらりと駐車してあった。(写真:6月8日)

今回のサミットで、警察官は全国すべての都府県警本部から動員されているそうだ。今回の総動員令は幕末を思い出させた。

江戸幕府は、開国を迫って近海に姿を見せるアメリカ・イギリス・ロシアの軍艦や捕鯨船を警戒して、警備が手薄な蝦夷を細分化し、九州にいたる全国すべての藩に蝦夷沿岸の警備を命じた。慣れないところに来た武士は冬になると、寒さと病気でバタバタ倒れた。

冬になると野菜がなく、死因の多くは当時の奇病、壊血病だった。白米中心の上官ほど死亡者が多く、雑草でも米汁に入れて食べていたしもじもは、ビタミンCを摂取できて生き延びたそうだ。あれから150年、動員されたおまわりさんは一日の仕事を終えると温泉につかって、いい湯だな。平和な世の中のご公務、ご苦労様である。

< サミット効果 >

サミットが地元にどれだけの効果をもたらしているのかよくわからない。功もあれば罪もあるだろう。確実にプラスになったといえるのは、知名度が抜群に上がったことだと思う。

この広告宣伝料はどれくらいに換算できるのだろうか。イベントでよくヨーロッパ各地に出かける。「北海道から来た」といっても、一般市民は知らない。

「札幌から来た」というと「おー札幌」と、ほとんどの人が反応し、札幌オリンピックを口にする。さすがヨーロッパはスキー王国だ。

おととしのトリノ冬季オリンピックのとき、35年ほど前の札幌オリンピックのダウンヒル優勝者、グスタボ・トエニが、開会式に五輪旗を持って行進していた。

彗星のごとく現れた大番狂わせの金メダリスト、グスタボ・トエニが、いまだに国民から尊敬されていることにびっくりした。今度ヨーロッパを訪れたときは、北海道がどれだけ浸透してるか聞くのが楽しみだ。

サミットの呼称が「北海道サミット」になるか、「洞爺湖サミット」になるか、高橋はるみ知事と長崎良夫洞爺湖町長はさかんに自己PRをしていた。最終的に当時の安部総理大臣が「北海道洞爺湖サミット」にきめた。足して2で割る保守政治家の得意の落としどころ決着だった。

< 乾杯のグラス >

サミットの間はじっとしているに限る。と思っていたら、この春、旦那様の転勤で、福岡に転居した自然観察仲間のご夫人が、5日札幌に里帰りしてきた。

九州のファーストレディが見えたので、ホームグラウンドにしている郊外の野幌森林公園に行き、「野幌サミット」を催した。森の中にはおまわりさんはいない。

この時期ほとんどの花が終わってる中で、ユリノキの花が見ごろだった。(写真:7月5日)

英語でチューリップ・ツリーといわれるこの花は、若草色のグラスに、オレンジの透かしが入っているように見えるエレガントな花である。今夜のサミット晩餐会で、福田総理が音頭を取って乾杯した杯は、真っ赤な輪島塗で、縁に各国首脳夫妻のイニシャルが刻まれている。ユリノキの花のほうが、環境サミットにふさわしいグラスのように思えた。

< サミットに期待 >

サミットの成果・意義などについて識者がいろいろ論じている。大変有益なものもあれば、底浅のものまでさまざまだ。地元紙のコラム欄にこのような一文が寄せられていた。

ちょっと長いが引用する。

「洞爺湖周辺のアイヌは山の神を大切にしてきた。動物も草も神のものだから食べ物がほしいときはきちんと断って山に入った。

必要以上にとらず、自然に負担をかけすぎないというのが先住民族の知恵だ。分配でトラブルが起きるとチャランケ(論議)で解決する。・・・チャランケの岩という伝説もある。

隣の地域との境で海岸にクジラが打ち上げられた。どちらのものにするか指導者同士で話あったが、互いに譲らない。三日三晩も続けたらクジラもろとも岩に変わってしまった。

自然との付き合い、分配や論議のあり方に、世界から首脳が集まる北の大地には、先住民族の知恵が満ちている。洞爺湖を望む山の上で現代社会の指導者は、どれほどの知恵を見せてくれるだろうか。

地球のためにまっとうな合意ができなければ、岩と同然といわれても仕方がない。自然の豊かさをよく感じ、よいチャランケをしてほしい」


コラムはこのように結んでいた。示唆に富む一文だと思った。

(寄稿=望田武司)

望田武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。



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