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08洞爺湖サミット・カギ握る日本

北海道洞爺湖サミットに寄せて「北の国からのエッセイ(27)」 (2008.07.18)
 アジサイ物語 

< 雨とは無縁のアジサイ >

アジサイといえば、青い手鞠のような花に、しっとりぬれた梅雨を連想する。そのアジサイが、いま札幌で見ごろである。

鮮やかな青いアジサイに、カメラを向ける観光客や市民がよく見られる。(写真:大通公園)本州での生活が長かった私は、7月から8月にかけて咲く札幌のアジサイは種類が違うのかと思ったことがある。

けど本州と同じで、サクラなどと同じように、北海道では1ヶ月ほど遅れて咲くらしい。おまけに北海道では梅雨がないときている。したがって北海道のアジサイは、雨とは結びつかない。

本州でよくあるアジサイの名所とか、アジサイ寺などというのも聞かない。○○公園の一角に咲いているという程度のものである。ただ5月から百花繚乱のように咲いていた公園の花も、ここに来て小休止、緑が一段と濃くなる時期を迎えている。それだけにアジサイは目立ち、ムクゲが咲く8月までをつなぐ格好の花となっている。

< 装飾花 >

アジサイは日本原産で、祖先はガクアジサイである。花びらが額のように淵に咲くことからこう呼ばれている。

北海道ではエゾアジサイと呼ばれる変種がある。きのう16日、苫小牧郊外にできたばかりの「イコロの森」というイングランドガーデンを見学した。

イコロとはアイヌ語で「宝もの」という意味である。面積は100ha、東京ドームの20倍というどでかいガーデンの片隅に、たまたまガクアジサイが咲いていた。

これまで観察した中でもっともきれいに咲いていた。(写真)青い花びらは本当の花ではなく、装飾花である。装飾花の役割は、着飾って「虫さん おいでおいで」である。女性がお化粧する心理がよくわかる花だ。うまく虫がきて受粉を済ませると、役割を終えた装飾花は、しょんぼりして下にうつむく。

人間はどうかと、振り向いて同行した同世代のご婦人を見渡すと、みな胸を張って歩き、装飾もしている。本当の花は、装飾花に囲まれた真ん中のつぶつぶしたものである。

アジサイは装飾花が、淵だけでなく表面全体に覆われた改良された植物である。したがって本来の花は装飾花に隠れて見えず、小さくて地味なのが面白い。装飾花も花は花、丸くて色あざやかで花一杯のアジサイはとても存在感がある。花言葉も「元気な女性」「辛抱強い愛情」である。

< アジサイを愛した異人さん >

このアジサイをこよなく愛した人が現れた。江戸時代オランダ商家の医師として来日したシーボルトである。

シーボルトは植物に造詣が深く、日本固有の植物を世界に紹介するだけでなく、いろいろなことに手を出して日本地図まで海外に持ち出してしまった。シーボルトは追放され、地図を手渡した日本の学者は処罰された。

俗に言うシーボルト事件である。シーボルトは、さぞかしアジサイやスズラン、イチョウなど、ヨーロッパになかった初めて見る植物には目を見張ったことだろう。とりわけ、アジサイの研究に力を入れたシーボルトは、オランダに帰国して著した「日本植物誌」のなかでアジサイの学名にotaksa を入れて発表した。

otaksaとは、シーボルトが花柳界から身請けして妻にしたお滝さん(楠本滝)である。シーボルトとお滝さんのロマンスなど知らない日本人植物学者にとって、日本語のようなotaksaが何を意味するのか、長年の謎だったらしい。牧野富太郎は長崎地方のアジサイの呼び名だと思っていた。 それがお滝さんだとわかって牧野は激怒した。

「シーボルトはアヂサイの和名を私に変更して、我が閨で目じりを下げた女郎のお滝の名を之に用いて、大に其花の神聖を涜した。脂ぎった醜い淫売夫と艶麗な無垢のアヂサイ、此清浄な花は長へに糞汁に汚されてしまった。 あ、可哀想な我がアヂサイよ」

牧野はこともあろうに学会誌上でシーボルトを口汚くののしり、慨嘆している。その批判も忘れたのか、牧野は後年、妻の寿衛子さんがなくなったとき、新たに発見した笹に「スエコザサ」と命名している。牧野はその実力を当時の東京帝国大学の教授に認められるが、学歴がないことなどから昇進できず借金生活となり、妻の寿衛子さんはいつも借金取りの応対に追われた。

牧野が家に戻ってきたとき、詰め掛けた借金取りに会わないようサインを送り、牧野は外を回って借金取りが帰るのを待ったという。糟糠の妻に対する感謝の念で、スエコザサが生まれたといわれている。

もっともアジサイはシーボルトの前に発表した学者がいて、otaksaは現在 学名にはなっていない。スエコザサはいまでも変種名として立派に残っている。

私はこの話を知ったとき「どっちもどっちで人間くさくて面白い」と思った。流れ星にしろ、植物にしろ、新種の発見には関係者の名前をつけるのが常識で、それによって新種の背景も知ることができる。

お滝さんにしても過去はともかく、シーボルトの妻であり、その限りでは寿衛子さんと変わりはない。それを直言して非難したのは、むしろ牧野の個性からくるもので、牧野のその強烈な個性が、当時の大学の同僚先輩から敬遠されたとも言われている。

牧野の快刀乱麻?の言動についてはいろいろ残されている。自分と同じくノンキャリアで東京帝大を去った平瀬作五郎が、世界的発見と騒がれたイチョウの精子の発見で、学者としては最高の名誉である恩賜賞を受賞したとき「犬も歩けば棒に当る式で、偶然の拾ひもの」と切り捨てている。

植物の勉強をしていると、いろいろな人間模様に遭遇し、植物観察を楽しくさせてくれる。

< 七色に変化するアジサイ >

アジサイはいろいろな花の色がある。一般的に酸性の土壌では青、アルカリ性ではピンクといわれているが、それほど単純でもないらしい。

アジサイのルーツのガクアジサイの色は青であり、アジサイを漢字で「紫陽花」と書くのはとても感じが出ていると思う。ただヨーロッパでは黄色やピンクなどさまざまな色に改良されている。

4年ほど前、ポーランドの小都市を訪れたとき、公園のアジサイはほとんどが黄色だった。(写真:2004.7 ツホーラ)

ヨーロッパで改良されたアジサイが、日本にセイヨウアジサイとして逆輸入されている。植物も観賞用にさまざまに改良されて、どちらが本家かわからなくなり、ルーツを捜し求めるのも難しくなっている。

それにしても夏の盛りに大通公園で、青いアジサイを見るとはっとする。アジサイが歌に唱われ、和歌や俳句によく詠まれるのも、アジサイの存在感の大きさを示すものだろう。

紫陽花や 藪を小庭の 別座敷   松尾芭蕉

(寄稿=望田武司)

望田武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。



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